「匿名」と呼ばれている状態は、本当に「匿名」のことを指しているのだろうか?
goo辞書によると、匿名の定義は以下のようになる。
自分の実名を隠してあらわさないこと。また、実名を隠して別の名を用いること。
--goo辞書
定義自体には特に目新しい発見はない。しかし、言葉の裏にあるニュアンスに着目すると、事情は大きく異なる。匿名という言葉の裏には「相手は自分を知ってる(かもしれない)」ので、「身分を隠す手段として名を明かさない」ことを選択するという明確な意思がある。この点は非常に重要だ。
「匿名」という言葉を使う場合、相手が面識のある人間であるという暗黙の前提が生じる。つまり、「匿名の人物」を非難するということは、自分の面識のある誰かを非難するということで、面識のある誰かが自分を誹謗中傷していると感じるからこそ、匿名を「卑怯」という言葉と結びつけるのだ。
そこで疑問に思うことが一つ。Web上でコメントをつけてくる人は全員知人なのか?この疑問にWebもリアルも関係ない。知らない他人が話しかけてくることは常にある可能性だ。そして、見ず知らずの他人は、常に名を告げるとは限らない。また、たとえ名前と連絡先を教えてくれたとしても、その内容が正確であるかはその場では判断しようがない。したがって、その場では相手の言葉を受け入れる以外できることはなく、その言葉が疑わしいかどうかは、限られた情報をもとに自分で判断するしかない。
相手が名を隠した知人である場合と、見ず知らずの他人である場合では状況は異なる。見ず知らずの他人は存在自体が未知であるが故に、たとえ名乗ったとしてもその名は何も保証しない。名前が何のコンテクストも持たず存在し、ただの記号としてしか機能しない。つまり、名は持つが無名の個人としてそこに存在するだけである。
現在「匿名」という言葉を用いて「無名」である状態を非難する論者は、この二つを区別していない。むしろ「無名」であることを「匿名」とすり替えて、「無名」でしかない人々の立場を貶めようとしてるように見えてしまう。
ムカつくので、ハッキリ言ってしまおう。
Webにおける「無名性」を匿名と非難する人は、見ず知らずの他人に対してオープンマインドにはなれないという状態を匿名という言葉を用いてカモフラージュしている。その欺瞞と裏に潜むスノビズム。私が軽蔑するのはその点だ。
Web上では、誰でも発言することができ、またその権利を持つ。そして、リアルと同様、見ず知らずの他人に話しかけることができる。当然そこにはリスクも存在する。自分を含めた多くの人は、無知で恥知らずで下品な一面を持っている。それはしかたのないことだ。そんな人間の弱さ汚さに直面することは、生きている以上避けれない。Webという野に降り立ち、無名な一般人と対峙することを選ぶ以上、そのリスクを避けることは出来ない。
例えば、作家になり本を出版する。その本には自宅の住所と電話番号が書いてあり、感想を自由に教えてほしいと書き添えておく。本がベストセラーになると、見ず知らずの他人から一日数千本の電話があり、同じく見ず知らずの他人が大挙して自宅を訪れるという事態を招く。そして、そんな見ず知らずの他人全員が礼儀正しいとは限らない…。
このような、住所と電話番号を一般に公開するリスクは誰もが容易に想像できる。しかし、Blogにおいてエントリーを公開し、コメント欄を解放し、トラックバックを受け付ける状態が、まったく同じリスクを伴うと認識できない人がいるらしい。一般公開している以上、見ず知らずの他人がそこ見ることを止めることは出来ない。
問題なのは、オープンマインドなリベラルを気取って野に降り立っているにもかかわらず、一般人の品性の無さに恐れ戦いている自らの弱さを隠すために、匿名という言葉を使って論理のすり替えを行っている欺瞞だ。見ず知らずの他人に寛容になれないなら他人とは接触を断つべきだし、知人の紹介なしには話しかけてはいけないと宣言したらいい。これは単純にコミュニケーションに対する考え方の違いである。確かに多少偏狭な考え方ではあるが、それ自体は個人の選択であり非難されることではない。無理して立派な人のふりをする必要はない。
それにもかかわらず、匿名という言葉を持ち出してきて無名な個人を非難する理由が私には理解できない。確かに、私みたいなどうでもいい無名人にとってもWebは粗野な野ではある。しかし、たとえノイズの方が大きくても、その中で輝くアイディアは確実に存在する。それを見つける苦労を厭い、正当に評価することができないのなら、Webにとどまる必要などないのではないかと思う。Webはサロンではない。
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