§ 土岐麻子『Debut』

Debut/土岐麻子

公式:土岐麻子official web site

宮川・土岐コラボ「夕暮れよ」は必聴。近年稀に見る名曲の登場にちょっと震えがキタ。

土岐麻子のセルフ・プロデュース。個人的に選ぶMVPはクリヤマコト。

ちなみに、収録曲の一つ「ロマンチック」を聴いてたら、不意にYOUCHANのイラストが頭の中でぐりぐり動き始めて、なんだかとても楽しくなった。(→こんな感じ。)

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土岐麻子といえばCymbalsなのだけど、『Neat, or Cymbal!』の「I'm a Believer」をなぜか聴いて知っていた。その程度なので、Cymbals時代の土岐麻子のヴィヴィッドな印象がほとんどない。(ちなみに今Cymbalsを聴いてみると、これがなかなか面白く聴ける。)

それなのになぜ今「土岐麻子」なのかと言えば、すべては『standards〜土岐麻子ジャズを歌う〜』を聴いたことによる。これがどうもiTMS-Jでけっこうなセールスを叩き出しているようで、土岐麻子まわりは今ちょっと旬なんだと思う。

ちょっとメインから外れるけど、この『standards〜土岐麻子ジャズを歌う〜』と『STANDARDS on the sofa~土岐麻子ジャズを歌う~』はとてもチャーミングなアルバムで、”スタンダード”とか言ってるわりにはアースの「September」、スティービー・ワンダーの「Another Star」や、今や違った方向で超有名なマイケルの「Human Nature」が入っていたりする。さらに、土岐麻子特有の軽くて甘い声と、ユルい英語の取り回し(?)がガーリッシュなポップ・テイストを色濃く感じさせて、いい意味でのけぞる。ジャズなアタマで聴くとものすごいギャップがあって、かなり強いインパクトがある。で、十中八九ヤラれる。聴き終わるころには、土岐麻子ラブ〜な状態になり、年甲斐もなくときめく。…そして、かなり恥ずかしい思いをする。(w

なぜジャズ好きな私の耳でもイヤな感じがしないかというと、もちろん土岐麻子の魅力というのはあるけど、彼女の持ち込んだポップ・テイストが、スタンダードがまだポップだった頃の息吹というものを連想させてくれるからなのだと思う。口当たりは甘いけど、とても丁寧に演奏されているのでそれくらいの説得力はある。

昨年そんな経験をした後、『Debut』に出会ったので、試聴することもなく直感買いしてみた。

聴く前にとりあえずCDのブックレットを開いてみると、そこには宮川弾の名前と共に日本のジャズ系実力派ミュージシャンの名前がずらり。でも、前述したスタンダード系アルバムと土岐英史の存在があるので、それは想定内。驚いたのは、Nona Reevesの奥田健介、西寺郷太と共に、キリンジ兄(堀込高樹)と、SUPERCARのいしわたり淳治の名が。宮川氏つながりなのかな。言われてみると、納得なアサイン。

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さて、余談はそれくらいにして内容に踏み込む。

クオリティの高いポップだということは一度聴けばすぐにわかる。でも、単にポップと言い切ってしまうのはちょっともったいない。まず押さえたいのは、このアルバムがCymbals的コンテクストをダイレクトに受け継ぐものではなく、Cymbals後の土岐麻子が経験してきたであろう音楽のエッセンスを正直に反映した内容になっているということ。

ピアノ・トリオをバックにヴォーカルを重ねるといったシンプルなアレンジが基本なので、山下達郎的なサウンド・クリエイティヴの妙味みたいなものを求めるとちょと違う。でも、今、土岐麻子の歌を最もチャーミングに聴かせようとするなら恐らくこれがベストな編成であり、名刺代わりとなるソロ・デビューならば尚更このようなシンプルさを選んだのはいい判断だと思う。シンプルな分ミュージシャンとしての実力が問われることになるが、今の土岐麻子にはそれを充分に生かしきるだけの表現がある。

まず特筆しておきたいのは、土岐麻子の作詞能力。ハッキリ言って、そこいらにころがっているエセ詩人が消し飛ぶ、強い個性を感じさせる。

ここで土岐麻子が選んだ言葉は、ラブソングという枠組みを意識しつつも、それに捕われることなく自由に飛翔する。一例を挙げると、ラブソングに不可欠と思われる「恋愛キーワード」がほとんど現れてこない。聴いている側に感性が不足すると「これってラブソングなの??」と疑問に思うかもしれない。それほど徹底している。

直接的な表現で「語る」よりは、周辺に散らばっている言葉を巧みにコラージュして間接的に想いのカタチを意識させようとする。また、言葉の意味と言葉(の発音)が持つ音楽的なニュアンスのバランスがよく検討されている。そんなわけで、具体的な意味を持ちながらも、どことなく音楽的な愉しみを感じさせてくれる言葉が選ばれるので、音楽と歌詞が分ち難く絡み合う。音楽のアレンジがシンプルな要素で固めているだけに、この歌詞の抽象度の高さがもたらす効果は鮮烈で、音楽の持つベーシックな世界観をひっくり返し、アドヴァンスな印象さえ楽曲に与えてしまう。

ただし、これは日本語で書かれた歌詞に顕著な特徴であって、英語の歌詞ではもう少し具体的な語り要素が強くなる。そういった意味合いで、英語の歌詞を持つ歌は伝統的な歌曲としてのテイストが強くなっているので、そのぶん安心して(?)聴ける。ちなみに、いしわたり淳治の提供した歌詞が乗る「私のお気に入り」も羅列系の言葉遊びが巧みに用いられていて、このアルバムの持つ表現の方向性によくマッチしていた。(タイトルから予想されるように、”My Favorite Things”へのオマージュなんだと思う。)

肝心の楽曲たちなのだが、これが美しい旋律てんこ盛りというか、とにかく洗練された旋律がこれでもかというほど叩き込まれており、どれも素敵な仕上がり。ここで選ばれている作家たちは本当にいい仕事をしている。キリンジ兄による「ロマンチック」は甘さと爽やかさを兼ね備えた絶妙なフレージングでポップの王道を正面から突き進むし、Nona Reevesの二人がそれぞれ提供した曲は、まるで、スタンダード!?と思わせるような完成度の高さを見せる。(正直言って、この手のスタイルの楽曲でこんなにいい仕事が出来る人とは知らず、自らの不明を恥じることになった。)

最後にどうしても銘記しておきたいトラックが一つ。宮川弾・土岐麻子夫妻コラボによるバラード、「夕暮れよ」。

基本的に宮川氏によるこの曲は、特に珍しい手法が用いられているわけではない。しかし、使用されている音はどれも慎重に選ばれている。反復進行を用いて調性をあちこち移動しながら少しずつダウンスライドさせ、部分的に調性を曖昧にするよう計画されているようで、明示的にトニックを示す箇所はフレーズの終端に限られる。そのため、曲全体の印象としては浮遊感を伴った中間的で儚い雰囲気を演出する。旋律は全体的にスキップダウンする傾向を持つが、サビではステップアップし、上行する旋律のエナジーが効果的に折り込まれてその印象を際立たせる。

そこに土岐麻子による言葉のコラージュが絡められ、この楽曲が目指す表現はさらに強調される。フレーズ内の短いスパンでは単語相互の関係は掴みやすいのだが、フレーズ対フレーズという単位になると、とたんに表現の抽象度が増す。ヘタな人がこのような手法を採ると単なるナンセンスものに堕するのだが、この人の非凡なセンスは、そんな抽象的な表現の中にドラマ性を持たせてしまう点に現れる。もちろん聴き手はそのニュアンスを探るために想像力を働かせる必要があるが、慎重に選ばれた言葉の積み重ねからは確かにストーリーの存在が連想される。

このように、普通に考えればとりとめのない表現の嵐になりそうなものだが、言葉と音楽が暗示する雰囲気が強い一体感を形作るので、手応えの確かな印象を聴き手に残す。もちろん、そこにはクリヤマコトによるヴォイシングの巧みさが大きく貢献していると思う。(なんつーか、その、クリヤ節全開ですわよ。)

要するに、一言でいうと巧い。練り込まれた曲なのに、わざとらしさを感じさせない。

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長くなったので、そろそろおしまいにしようと思うのだけど、自分が感じたことはまだ充分に表現されていないような気がして、なんだかもどかしい。そのくらい、いろんなことを感じさせてくれるアルバムだった。

このアルバムの持つ面白さは、大人と児童にはよく伝わると思う。でも、思春期の子どもにはよくわかんないかもしれない。ちなみにウチの子ども(3歳)に聴かせたら、「私のお気に入り」がお気に入り(笑)のようで一緒に歌ってた。

さらにオマケ。

自分的慣例に従って、CDをアーカイヴ用ケースに移行しようと思ってプラ・ケースを開けたら……なんか出るよ。(w

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Cymbalsな人たちにとってこのアルバムはどう映るんだろう?ということが気になって検索すると、こんなのが。

Xhmarquee2:Debut

シンバルズの幻影を引き摺っていて、少なからずあの音楽性を求めていた僕としては、なんだか拍子抜けという印象。…(中略)…などと考えつつ聴いていったが、「夕暮れよ」という楽曲で考えを改めた。哀感と寂寥感を打ち出す方向のバラードだが、素直なアレンジと歌唱が上手くマッチし曲としての世界観が確立されていて、比較する気持ちが失せてしまった。細やかで率直なこの作品は、シンバルズにあったような強度を基準に考えていると楽しめないのだなぁと思い当たったわけで。…

Cymbals的なコンテクストで聴くとこのアルバムはたぶんつまんないんだろうな、と予想していたので、この人が書いている気持ちの変化は何となく理解できるような気がする。

その他エントリーたちの抜粋:

土岐麻子の"Debut"を聴きまくり-takemag remi

…そこかしこにBlossom Dearie、Bob Dorough、Michael Franks 辺りの臭いを感じました。

Modern Jazz Techno の音楽 よもやま話:土岐 麻子 ”DEBUT ”

…キリンジの堀込高樹が曲を提供しているのでそれもかなりポイント高いです。キリンジのサウンド聴いたことある?
これもいつか紹介しようと思っているんだけどコード進行がかなり面白いので、作曲に行き詰っている人は参考にしてほしいですね。…

Posted by tomo at October 4, 2005 11:18 AM | REPORT | TrackBack |

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