§ 佐渡裕&シエナ・ウィンド『ブラスの祭典 3』を聴いてみた。

商品紹介:佐渡&シエナ CD 《ブラスの祭典 3》
CD:ブラスの祭典(3)(Amazon.co.jp)

公式:シエナ ウインド オーケストラ オフィシャルサイト
公式:佐渡 裕オフィシャルサイト

via おがりんのお気に入り〜★ - CD Review: ブラスの祭典3

シエナ ウインド オーケストラを初めて聴いた。

今回採り上げた『ブラスの祭典 3』てのは、どうやらシリーズ物の最新盤らしい。どうやら1枚目は相当売れたらしく、人気シリーズの模様。1、2枚目はワーナーから出ていたようだけど、3のディストリビューションはエイベックス。(佐渡裕がエイベックスと契約したから移ったのかな?)

ごく最近、20年ぶりくらいにウィンド・アンサンブル(要するに吹奏楽)の作品を聴きはじめた。きっかけは、C.T.SmithのFestival Variationsがどうしても聴きたくなったからなのだが、ついでにフェネル翁の業績を振り返ろうと思ってマーキュリーの再発ものを大人買いしてから勢いがついてしまったらしく、フェネル&クリーヴランドのG.ホルストの組曲(名盤!)とか、V.ネリベルの作品集とか、カレル・フサの作品集とか、ヤン・ヴァンデルロースト作品集とか、ヨハン・デメイの『リング』のオケ版とか、堅め(?)のシリアスな作品とにかく諸々聴きまくっている。その一環で買った一枚が『ブラスの祭典 3』。ググってるうちにぶち当たった、おがりんさんのところで紹介されていたのがきっかけで購入。

ざっと演奏曲目を見ると関連のない作品の羅列に見えた。「なんでこうなるんだ?」と思って同梱されているブックレットを読んだところ、リスナーのリクエストを元に選曲されたらしいことがわかった。ちょっと納得。で、さらにググってみたところ、これらの楽曲の多くは吹奏楽版の「なつメロ」にあたる作品らしく、要するに売れ線狙いのいつものエイベックス商法なわけで、はじめから売る気満々なのね。(笑)

しかし演奏の方はいたってまともで、シエナの演奏自体はかっちりとした造形で丁寧に演奏されているので好感が持てる。

「ディスコ・キッド」「高度な技術への指標」「風紋」は初めて聴いたのだが、正直な話どこがいいんだかよくわからなかった。確かにきれいな旋律が出てきたりしていて口当たりのいい作品たちなのだが、特に手の込んだ展開があるわけでもなくあっという間に終わってしまうので、サラッとしすぎてどうにも聴き応えがない。きっと、演奏したことがあると面白く聴けるのだろう。(ググってみるとこの3作品に言及してる感想の多いこと、多いこと。「なつかし〜!」とかいうコンテクストでこの録音を聴いている人が多いようだ。)

それでもわからないなりにちゃんと聴いていると感じる問題点はある。それは「ディスコ・キッド」にあったソロ。あれはハッキリ言って蛇足の極み。「ノー・アイディア」もいいところで、あのプレイで何を表現しようとしたんだかまったくわからない。ずーっとジャズを聴き続けている人間としては、許し難いインチキ加減。あんなプレイするくらいなら、ソロをカットしてもよかったんじゃないかと思う。

まぁ、それはそれとして。「詩のない歌」のような佳品を知ることができたのは大きな収穫だと思う。最近、毎朝オルガン付きの「カンタベリー・コラール」を聴いているせいか、この作品はとても楽しんで聴くことができた。シエナの演奏がよいことも大きく貢献しているが、ロルフ・ルディンがこの作品において取り出したサウンドはウィンド・アンサンブルが持つ美質を余すところなく表現している。オーケストラよりもよくブレンドされ、オルガンよりも繊細な表現を持ったウィンド・アンサンブル固有の美質を味わうのに絶好な作品の一つだろう。(このトラックは何度もリピートして聴きたくなってしまう。)

ジェイガー、ホルスト、スミスの作品は、過去にアナリーゼを済ませてあったので今回の演奏の質まで味わいながら余裕を持って聴くことができた。これらの作品でのシエナの演奏からは彼らのポテンシャルの高さが感じられたし、佐渡の採ったアプローチもわざとらしい演出を避けて素直に作品の本質を突くものだったため、互いの長所が引き出されシナジーを生んでいるように感じられた。確かに佐渡とシエナの組み合わせは、大きな可能性を秘めているような気がする。

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さて、ここからはちょっと蛇足気味の考察。

おがりんさんがFestival Variationsへの感想として「ある意味安全運転っぽいのですが」と表現していたのだが、実は私もそんな雰囲気を感じる瞬間があった。どーしても気になったので、何度も聞き直して原因を真剣に考えてみた。

結論から書くと、直接的な原因は佐渡裕の要求する表現そのものに原因があるような気がする。このCDに収録されている演奏を注意深く聴いていると、佐渡がシエナに要求している間合いが弦楽器を含む「オーケストラ」のものと同じだということに気づいた。どうでもいいような問題に思えるかもしれないが、この違いは表現上重要な意味を持っている。恐らく、彼は「ウィンド・アンサンブル」の持つ独特の表現限界を超えようとしているのではないかと思う。

それは緩叙表現部で顕著なのだが、旋律を充分に歌い込もうとする時フレーズの末尾でほんの少しだけネバろうとする点にあらわれている。

ところで、弦楽器を含むオーケストラと管楽器が主体となるウィンド・アンサンブルとの決定的な差異は、楽器が構造的に持っている発音方法の違いによってあらわれる。

弦楽器は、発音方法の特性上「音の立ち上がり」を明確に表現することが難しい。結果として、演奏者のアクションが始まってから音が立ち上がってくるまでにミリ秒単位の遅れが生じる。逆に、音が出てしまえば音色を繊細にコントロールできるので繊細な変化を表現することが可能となる。例えば、音のリリース時に微妙に音色変化させて新たなニュアンスを加えることができる。

一方、管楽器の場合、タンギング等を工夫することで「音の立ち上がり」において様々な表現を行うことができる。硬めのタンギングを用いればエッジを立てたアタックを表現できるし、逆に息のスピードを巧みにコントロールすれば弦楽器のようにソフトな表情をつくることもできる。しかし、音をリリースするタイミングではたいした表現を加えることができない。一度発音されてしまうとあとは音を持続させるか減衰させるかしか選択肢がないため、短いスパンで微妙な音の変化を表現することが難しい。

このように、弦楽器では音のリリース、管楽器は音の立ち上がり、これらがそれぞれ表現上の勝負時となる。(まったく正反対なのだ。)

したがって、弦楽器を中心としたオーケストラではフレーズの末尾での「ネバり」が聴き手の意識に残る響きを充実させるというポジティヴな効果を生むが、ウィンド・アンサンブルでは表現の単調さを感じさせる一因になることがある。フレーズの末尾で粘られてしまうとそこで微妙なニュアンスを表現することが難しいので、要するに間が持たなくなってしまう。

そんなわけで、吹奏楽の演奏に慣れている指揮者だと、発音のニュアンスに全神経を注ぎつつ、デュナミクをデフォルメし、若干速めのタイムで演奏者を追い立てることで表現の単調さをごまかそうとする。しかし、このCDでの佐渡はそういった方法でごまかすことはしない。それぞれのフレーズが美しく鳴り響くために必要なスペースを確保できる適切な速さのタイムを採用し、必要に応じて充分にテヌートする。その誠実な音楽作りが魅力の一つになっているのは確かだが、反面、部分的な表現の単調さをまねく原因にもなっている。

恐らく、この問題は本来であればシエナ側がなんとかすべき問題なのだと思う。しかし、現在の彼らだと佐渡の要求する表現を充分に活かしきるような演奏法を発見できていないような気がする。よくも悪くも、現在のシエナは「吹奏楽」の価値観に染まりすぎているのかもしれない。しかし、佐渡とシエナがチャレンジしている表現の方向性は多いに可能性を感じさせるものであり、このまま成熟してゆけば他に変え難い個性となるだろう。大きな困難を伴う作業ではあるが、俗っぽく媚びずにこのままチャレンジを続けてほしいものだ。今後に期待したい。

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最後に一言。

ヂャケのデザインがダサい。どうしようもなく逝けてない。あれだけはなんとかしてほしい。

Posted by tomo at June 3, 2005 2:42 AM | REPORT | TrackBack |

Comments

はじめまして。「おがりんのお気に入り~★」のogalynと申します。

TBありがとうございました。
非常に詳しく書いていただいて、ワタクシの抱いた印象の原因がはっきりしてきました。

なるほど~~~。

こうしたしっかりした考察を拝見すると、自分の記事のちゃちいことちゃちいこと(笑)。
恥ずかしい限りです。

コメントにいくつか意見もいただきましたが、やはり自分が演奏した(もしくは演奏したかった)課題曲、というのはそれぞれみなさん思い入れが大きいようです。
そういった意味ではこの録音は「売る気満々」(笑)なワケなのですが、音楽の一分野としては「マイナー」な吹奏楽の録音の売り方としてはたいへん意欲的だなァ、と思う次第です。

なにはともあれ、ワタクシのお気に入りの1枚を気に入っていただけたようで、たいへん嬉しいです。
また機会がありましたら、TB記事お待ちしておりますm(_ _)m

Posted by: ogalyn at June 3, 2005 10:41 PM

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