§ Adobeによるmacromediaお買い上げの理由を考えてみる

前のエントリーの続きということで、この問題について考えてみる。

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とりあえず経済的な面から考えてみると、macromediaが単独で生き残る道は残されていなかったと見なすのが妥当だと思う。(ちなみに妄想すると、お買い上げプランを持ちかけたのはAdobeかもしれないけど、macromedia側が積極的に推進したのではないかと思う。)

macromediaは近年は売上・利益ともに頭打ちで、安定していると言うこともできるが、実質的には成長が止まっていた。対するAdobeは売上・利益ともにmacromediaの2倍以上の規模があり、近年はPDF関連のビジネスが好調で同社の主力ビジネスに成長しているようだ。(昔のイメージとはちょっと違うね。)

About Adobe - Investor Relations
Macromedia - Financial Data Sheet

買い上げ価格なのだが、現在のmacromediaにとって無難な査定であるように思える。株式の交換比率などを見ても、むしろAdobe側が多少誠意を見せているように感じられる。逆に言うとAdobeはそれくらいmacromediaの資産価値を認めているのだろう。

それは現在のmacromediaの資産がAdobeの成長戦略にとって直接的に有用であると見なしていることをあらわしていると思う。

製品ラインアップを比較すると、それぞれ別の市場を収益源とする企業であり、両社がガチンコに競合しているとは言い難い。現在の両者が直接的に競合している製品は、Freehand, Fireworks, Dreamweaverの3つだけであり、それらアプリケーションの市場規模から考えると、ぶっちゃけたハナシ、大したインパクトはない。

それでは、なぜAdobeはmacromediaの資産を必要としたのだろう。それを考えるには、まずAdobeが何屋なのかを考えてみる必要がある。

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世間的には今のAdobeはPDF屋である。PDFてのは実質的にはPost Scriptのなれの果てであって、Post ScriptにWeb的なスクリプティング環境やセキュリティ機能をミックスしたものである。ちなみにJavaScriptも動く。

Adobeがこんなものを必要としたのは、書類をデータ化するにあたって「電子書類の完成形」を求める需要があったからだ。

WordやPageMaker(懐かしい…)のようなドキュメント作成アプリケーションが残すデータは、ドキュメントの素となる各アプリケーションの独自形式によるデータ、そこからプリンタ・ドライバを通して生成されるPost Scriptの二つしか存在しなかった。これらは、どちらも「紙のドキュメント」を生成(プリント)するためのプロセス・データでしかなく、さまざまなアプリケーションで共有され得る「電子書類の完成形」と呼べるものではない。

そこでAdobeが提案してきたのがPDFである。元ネタがPost Scriptてのが笑えるが、「電子書類」の完成形としてビジュアル表現を重視する形式を採用したのは、(当時としては)妥当な選択であったと思う。見た目はまんま書類であり、本のように目次が作れる。ついでに言うと、プラットフォーム間でのレンダリングの差異が発生しにくく(ゼロではない)、書類の体裁を保ちやすい。

これらの特徴は何と言っても納入先のアタマの固いオヤヂ連中にわかりやすい。「電子書類」という訳がわからないものをビジュアル一発で感覚としてとらえるためには最適と言えるかもしれない。

実は、「電子書類」としての先行事例にはSGMLっつう立派なものが存在するのだが、まともなSGMLレンダラの実装事例が少ないことや、巨大で複雑な仕様故に肝心のドキュメントを作成するのが極端に面倒くさい。そんなわけで、その立派な志に反してSGMLは現在でも一般には普及してない。

実は、AdobeはこのSGMLに関するツールとソリューションを持っていて、途中でXMLなんかも飲み込みつつ陰の(?)主力商品に仕立て上げようという微かな努力の形跡があったのだ。しかしとにかく低調で、結構キラーなソリューションであるにもかかわらず流行らなかった。

そんな紆余曲折を経てRSSが飛び交うXMLな現在。ワンソース・マルチユースが叫ばれ、データとプレゼンテーションの分離が盛んに説教されるわけで、当然のことながら従来のニーズにフィットしてきたPDFにもその影響が及ぶことになる。

ここからは想像になるが、恐らくAdobeはPDFにXMLを統合してくると思われる。せっかくPDFが流行ったのでプレゼンテーション層はPost Scriptでもいいが、そこからプレーンな文書データを取り出せるようにする必要がある。そこでXML登場、と。で、順等に考えればPDFへXMLを統合してくるものと思われる。そこまでいかないとFrameMakerに象徴される総合ドキュメンテーション・ソリューションをこれまで生き延びさせた意味がなくなる。

さて、ここでやっとmacromedia登場かと思いきや、そうではない。なぜなら、彼らのビジネスのコアにXMLを組み込むというミッションはAdobe独力で成し遂げることができるはずだから。SGML関連のツールおよびソリューションを開発する際に得られた経験は、XMLソリューションの構築に利用できる。したがって、彼らにはあらゆるドキュメンテーションのコアとしてXMLが機能する姿は既に見えているはずだ。そして、同時にその際の問題点も見えているはず。

恐らく彼らが最も大きな問題だと考えているのは、まさに「ドキュメント・パブリシング」の部分だろう。

さまざまなメディアに対して中立的なデータは、意外に簡単にできる。軽量で純度の高いデータを作成するには、対象となるデータの特性に特化してデータの型を都度定義してしまうことが最もふさわしい。そうしないと、SGMLのような巨大な汎用型が必要となり、すべてのデータをその枠内に押し込めなければならなくなる。これだと運用するのは相当ツラい。つまり、現実的な「ワンソース・マルチユース」は、ソースとなるデータを出力メディアの特性に応じて臨機応変に変換して使用することが大前提となる。

そこで問題になるのが、ソースを変換するフィルタの性能と開発効率、それに出力データの最適化である。これが意外に根が深い。汎用型という夢を追いかけるならともかく、出力メディアが増えればその出力型に応じたフィルタを逐次開発する必要がある。このフィルタの開発が複数メディアへのパブリシングにおいて大きな負荷となる。逆に言うと、ツール屋でありソリューション屋であるAdobeとしては、この部分に大きなビジネス・チャンスが転がっているわけだ。

例えば、プリント用に作成したドキュメントをボタン一発でWeb用ドキュメントとしてパブリッシュするとか。これ、意外にできそうでできない。画像関連の画素密度の問題から、RGB-CMYK問題による色見の違い、フォント関連、さらにドキュメントのアクセシビリティ等、とにかくさまざまな問題をクリアしなければ実現できない難問だ。単純に考えると、紙用のドキュメントをインチキなHTMLに無理矢理変換すればいいと思うかもしれないが、ムダに重いページになったりしてとにかく使いづらい(ユーザビリティの低い)ドキュメントになりやすい。で、結局そんなドキュメントは誰からも利用されないわけで、そんなものに情報資産としての価値など生まれない。

今のところこの問題を解決する最短ルートは、ウェブ用ドキュメントと印刷用ドキュメントを同じ方法で作成するということになる。つまり、DB+XML+XSL(またはCSS)で作るのと同じような方法でイラレやインデザインのデータを作るということ。この予想があたっているとすれば、Adobeは自社のクリエイティヴ・ツールのコアを刷新する必要があると思う。というわけで、これからのAdobeはまさに大改革時代に突入することになる。

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さて、ここでやっとmacromedia登場。個人的にはmacromediaてのはプロフェッショナルなツール屋としてはもう終わっているに等しい状態だったので、実は彼らの動向を無視していた。彼は数年前から「Flash屋」であり、「開発環境+サーバアプリケーション屋」であり、その枠組みで完結していた。恐らく、Adobeにとってもmacromediaはそのように見えていたと思う。ただ一つの特性を除いて。

実は、macromedia最大にして最高の特性は、その「言語設計能力」にあると思われる。Lingo、ActionScript、CFML、MXML…等。Lingoは完全に独自の言語だったが、ActionScriptは基礎はECMAScriptの拡張であり彼らの発明ではない。しかし、JavaScriptにルーツを持つECMAScriptをFlashのScript言語に採用してくるあたりの判断の良さは、やはり優れた言語設計の資質があってのことだ。これこそmacromedia最大の資産であり、またAdobeに最も欠けている機能であり、彼らがmacromediaを買う最大の理由だと思う。

統合パブリシングツールの開発を前提として、自社のツール群を統合的に再設計するとなると、各ツール間での互換性に配慮しつつ、各ツールの特性考慮したデータ型を設計し直す必要がでてくる。XSL等既存のテクノロジを組み込みながらの設計になると思われるので、恐らくかなり高度になることは間違いない。まさに、この場面でにmacromediaの言語開発チームが必要になるだろう。

そこで彼らが期待通りの働きを見せ、Adobeが統合パブリシング・ソリューションを持ったとしたら…その先に見える未来のAdobeは、まさに、MSやgoogleと並ぶ評価を受ける会社として認知されることになるだろう。はたして、そううまく行くかどうか。今はとにかく静観して、彼らのお手並みを拝見することにしようかと思う。

Posted by tomo at April 21, 2005 11:34 AM | ESSAY | TrackBack |

Comments

はじめまして。
「なるほど~」と唸りながら読んでしまいました。
TBさせてもらいましたが、先々のことを考えるとむしろアドビの方が切羽詰っていたんじゃないかな?と私は思っていたのですが、確かにマクロメディアも「さあ、この先どうする?」という状態だったのかも知れませんね。
仰るように「ワンソース・マルチユース」は口で言うほど簡単でないと思いますが、だからこそそこを強化するための買収だったという点についても同感です。
また、「言語設計能力」に目をつけたというの視点は新鮮でした。
いやー勉強になりました!

Posted by: takumi at April 23, 2005 3:26 PM

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