§ Jon Nakamatsu played Tchaikovsky

東京交響楽団:東京オペラシティ・シリーズ第27回
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以前エントリーしたこのある、USAのピアニストジョン・ナカマツによるチャイコフスキーのピアノ・コンチェルトを聴いてきた。

今回のプログラムは、オール・チャイコフスキー。<スラブ行進曲>で始めて<悲愴>で終わるという、秋の日本にぴったり(?)な構成。客の入りもよかったようで、ほぼ満席の状態。多くの人は秋山さんの<悲愴>を聴きにきたのだろうけど、私のターゲットはジョン・ナカマツによるチャイコン。

これまでの人生において、お腹いっぱいになるくらい聴いた曲ではあるが、よく思い返してみるとライヴではそれほど多く聴いていはいない。初めて聴いたのは16、7年前のこと。そのときのピアノは野島稔。この人もヴァン・クライバーン・コンクール入賞者。(確か指揮は秋山さんだと思う。オケは忘れたし、場所も定かではないけど…。)超有名曲だけで構成されたコンサートって、なんとなく心理的に抵抗がある。(下心ミエミエというか、なんというか。)今回のコンサートも演奏者にJon Nakamatsuが入っていなかったらスルーしていたと思う。

冒頭の<スラブ行進曲>は演奏者にとっても聞き手にとってもウォーミング・アップの要素が強かった。最高というわけではないが悪くもなく、そつのない演奏。<悲愴>は、先にお目当てのコンチェルトを聴いてしまったせいで、私の感覚が燃え尽きてしまったのではないかと思う。悪くなかったと思うのだけど、今思い返してみるとあまり印象に残っていない。スマソ。

それくらいジョンの演奏は鮮烈な印象を残した。

彼の演奏スタイルは、これまでに幾度もCDを聴いたのである程度は知っているつもりだったが、今回のコンサートを聴いてその印象がよりクリアになった。

とにかく驚いたのは、音楽の理解力と耳の良さだ。演奏においてピアノがどのように鳴り響くべきか熟知しており、その点において非常に明確なヴィジョンを持っていることがわかった。(十分に驚くに値することだが、)彼の演奏には曖昧に響く箇所がない。少なくとも、見当たらない。また、それが単なる「美しいサウンド」で終わらないのは、演奏している楽曲を充分に理解していることを意味する。

サウンド面に関しては、ダイナミック・レンジが広く、且つすべての音域において整理されたクリアなサウンドを持っている。ピアニシモからフォルテシモまで濁ることなくクリアに響き、サウンドそのものが叙情性さえ感じさせる。

それはコンチェルトの冒頭を聴いただけですぐに感じ取ることができた。いきなりフルオケで鳴るのでピアニストはキーをぶっ叩いてオーケストラに対抗しようとする場合が多いのだが、ジョンは的確に声部のバランスをとったサウンドを差し込んで、存在感を誇張することなくオーケストラにピアノのサウンドを馴染ませてきた。しかし、冒頭の動機をピアノが変奏を交えつつ反復する部分では、適度な余裕を感じさせながら臆することなく動機を歌い込むので、美しいサウンドとともにピアノの存在感が自然と浮き立ってくる。このあたりのかけひきの巧みさはルビンシュタインを思い出させる。(といっても、ルビンシュタインをライヴで聴いたことはないが…。)

アジリティに関しても申し分なく、安定したタイム感覚に裏打ちされた正確な打鍵で華やかな効果を生む。この点に関しても最高水準に達しているのは間違いない。

圧巻だったのは、フィナーレの大詰めのAllegro vivo部分。これまでに私が聴いた演奏の中でも最も速いのではないかと思われるタイムを採用し一気に追い込んでいった。しかし、そこに到達してもまだ余裕を感じさせた。その様子からするとジョンはもっと速く弾きたかったのではないかと思われるが、オーケストラのアジリティが限界に達していたようだったので踏みとどまったのではないだろうか。結局、アンサンブルは乱れることなくフィニッシュしたが、もしこのオケがシカゴやベルリンだったら…と思うと少しもったいない気がする。(とは言っても、オケは充分に健闘していた。)

今まで指摘してきた部分はそれだけで充分に賞賛に値するが、それは今回の演奏の核心ではない。

今回の演奏で最も際立っていた特徴は、どの局面においても「演技過剰」になることなく、その楽曲が元来備えている美質をあざやかにヴィジュアライズした点にある。わざとらしいギミックを用いることなく、楽曲中に現れる動機や主題を的確に描画することで、あくまでも自然に(そう感じさせるように)それぞれの要素の性格の違いを描き分けていた。緩急自在な表現と書くと陳腐だが、そう表現するしかないだろう。それが非常に高いレベルで達成されており、その小さな積み重ねが全体的には非常にドラマティクな対比につながっていた。このあたりのセンスの良さは、彼が単なるピアニストではなく完成された音楽家であることを示していると思う。本人にその気があれば指揮者としても成功できるだろう。(もちろん個人的にはピアノを弾き続けてほしいが。優秀な指揮者は掃いて捨てるほどいるが、彼に比肩するピアニストは世界的に見ても稀だ。)

この点に関しては、最大級の賞賛が贈られるべきだと思う。個人的なことを書くと、この曲は譜読みも完了しておりさらに数百回も聴いた曲なので、正直なところ少し飽きていた。しかし、それでも今回ジョンの演奏からはハッと驚かされた表現を幾つも聴き取ることができた。

(誰か、今回の演奏を発売してくれないだろうか。あのままマスタリングして、世の中に出せるレベルの完成度があったはずだ。)

跳ねるような歩き方でステージに登場してきた比較的小柄なピアニストが、偉業を成し遂げたのは間違いない。指揮の秋山さんにとっても会心の出来だったようで、あんなにうれしそうにしていた秋山さんは久しぶりに見た。演奏終了後にジョンに抱きついていたいたし。(w

結局彼は6、7回ステージに呼び出されて、アンコールとしてショパンの<幻想即興曲>を弾いた。先に発売されている録音よりも、ノリノリで素晴らしいダイナミズムを持った演奏だった。あの曲をあんなに真面目に弾く人を見たことがない。

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オマケ。

Jon Nakamatsuによるブラームスのピアノ作品のアルバムが発売されたようです…というか、会場で売っていたので購入しました。

さらについでに書くと、サイン会やってたのでサインもらってきました。「あなたがブラームスを演奏するのを待っていました。このアルバムが発売されてうれしいです。」みたいなことを言ったら、ちょっと驚いたような様子で、にっこり微笑んでくれました。

家に帰って早速聴いてみましたが…これが素晴らしい出来で、一見わかりにくいブラームスの美質を余すところなく描ききっていました。脱帽。

まったく、スゴいピアニストがいたもんだ。

Posted by tomo at October 31, 2004 9:36 AM | REPORT | TrackBack |

Comments

こんにちは。今回初めてこのWebSiteを拝見させていただきました。
私も彼のコンサートに何度が足を運んだことがあります。特に、今年の初めにChopinのPiano Concerto E minorを聞いたときに、彼の完成された構想力に非常に驚くと同時に、何度も聴いていてよく知っている曲なのに、まるで初めて聴いたような新鮮な感動を覚えて、彼の演奏によって、この曲の美しさがまさに倍にもなって伝わってくるようで、思わず涙してしまいました。こんな経験はあまりないので、それ以降すっかり彼のファンになってしまいました。
そして今回、ふと彼が日本ではどのような評価を受けているのが気になって調べているときにこのページを拝見したのですが、私のように彼の演奏に感動している方がいると知って、私の勘は間違っていなかったと確信できてとても嬉しいです。
大変失礼な質問で申し訳ないのですが、MIAMOTO TOMOさんは音楽関係の方ですか?どういう方なのかProfileを探したのですが、見当たりませんでした。もしよかったら教えていただけますか?
それから彼の例の日本での公演について他でどのようなReviewがあったのか、Miamotoさんのように絶賛されたのか(ライブCDがでたとか?)、あるいは、ブラームスのCDについてのReviewはどうなっているか、非常に興味があるのでもしよかったら教えていただけませんか?
私はカリフォルニアのサンノゼ在中(ジョンと同じです)なのでなかなか日本の情報にアクセスできないので非常に気になります。
よろしくお願いします。
それから、私のコメントは恥ずかしいので、サイトには公開しないようお願いします。

Posted by: maya at September 11, 2005 4:38 PM

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