iTunes Music Store が日本で開始されないホントの理由
参考:デジタルARENA:音楽業界を革新するか?アップルの音楽配信サイト
参考:PC Watch:後藤貴子の米国ハイテク事情 “北風より太陽”によって米国でデジタルコンテンツとPCが栄える?
このところ日本のレコード業界には失望させられっぱなしだ。閣第九一号の件といい、その動きの怪しさと柔軟性のなさはダメ官庁を彷彿とさせる。
強引な方法で音楽CDの輸入に大きな規制がかけられようとしている今、最も気になることの一つは、iTunes Music Store Japan はなぜ今だに立ち上がらないのかということ。
実は「ブロードバンド」という言葉がはやり始めた頃に音楽配信事業の立ち上げを真剣に検討した(させられた?)ことがあったのだが、個人的な見解としては、当時すでに「ビジネスとして成立させるのは非常に困難」という結論に達していた。
当時はDRMの仕組みがまったくといっていいほど整っていなかったし、それよりも問題になったのは、デファクトとして認知されるほど普及した少額決済手法が確立されていなかったことにあった。もちろん、当時すでにBitCashのようなプリペイドカード方式の手段が存在してはいたのだが、ご存知の通り、それほど普及しなかった。
『iTunes Music Store が日本で開始されないホントの理由』では、その問題が指摘されている。
日本で開始する場合も当然カードの決済手数料が必要になる。日本のカード会社がミニマムの決済手数料をいくらに定めているのかは不明だが、60セント=約72円というのはまず考えられない。これは僕の推測だが、100円とか150円はくだらないのだろう。
これに著作権使用料(情報料の7.7%又は7.7円のどちらか多い額)、著作隣接権使用料、諸経費を加えると、米国のように1曲99セント=109~110円で販売することなどほとんど不可能となる。かといって、今さら200円300円で売られても、米国ので99セントの事実がある以上ユーザーとしては納得できないものがある。
ところで、米国において iTunes Music Store が成功した最も大きな理由はどこにあるのだろう。
『PC Watch:後藤貴子の米国ハイテク事情 “北風より太陽”によって米国でデジタルコンテンツとPCが栄える?』では、その理由を鋭く分析している。
一般ユーザーから見た場合、ファイル交換には、もともと、設定などの敷居が高く違法性も高いという短所があった。だが、ダウンロードした音楽を自由に使え無料という長所があった。これがユーザーには短所を補って余りあると映った。一方、重DRMのサービスには、合法という長所があり、ファイル交換に比べると設定もラクだった。だが、自由度が低く料金が高いという短所があまりに大きい。ユーザーにはジレンマだった。
軽DRMの有料サービスは第三の道を示した。DRMはかかっているが、まずまず自由がある。お金は払うが、そこそこ安い。そして合法でラクだ。するとジレンマを解消されて、ユーザーが集まった。コンテンツを保護するには、DRMテクノロジーに頼るだけでなく、サービスとしての“落としどころ”作りも重要だったわけだ。
DRMに付随する「不自由さ」を如何に忘れさせるかが成否のカギになっている、というこの主張は、事の核心を突いていると思う。
Fairplayのようなユーザにとって比較的自由度の高いDRMは、大部分のユーザの音楽データ利用実態にうまく対応できているのだと思う。要するに、普段の利用でDRMの存在を忘れさせてしまうくらいの自由度を保証すればユーザは音楽データが有料であることを許容する、ということだ。もちろん、iTunes Music Storeにおける価格設定が絶妙だったということも見逃すべきではない。
それら成功要因を踏まえてなお最も大きな障害だと感じるのは、日本のレコード業界の音楽データ販売への態度である。すでに市民権を得ているレンタル事業さえ本音では忌み嫌う日本のレコード業界が、流通をすっ飛ばして直販する音楽データのダウンロード販売でビジネスを展開しようとするかは大いに疑問だ。
しかし、その硬直した態度が生み出す閉塞状況がイリーガル・コピーの氾濫にさらに拍車をかけるとは考えないのだろうか。
音楽コンテンツは価格競争が行われず、再販制度によって比較的長期間価格を維持していることの「歪み」がイリーガル・コピーの氾濫を助長していると思う。したがって、イリーガル・ユーザをリーガル・ユーザとして取り込むために必要なのは、価格を維持する期間の短縮と、レンタル料と同程度の小額で購入できる商品の提供であると考える。
現在の流通を利用しCDのようなメディアを軸とした販売ではそのような小額商品の提供は不可能だ。そこで音楽データのダウンロード販売がクローズアップされるわけだが、肝心のレコード業界が及び腰だ。ヘヴィなDRMでガチガチにコピー制限をかけることに躍起になっており、デジタル・データの持つ利便性を損なうような方法でしかコンテンツを提供する気にはならないように見える。
(…そしてイリーガル・コピーは繰り返される。)
消費者が求めているものはハッキリしている。すべては「手軽さと自由さ」に集約される。それが実現されるのであれば商品が有料であるかどうかは問題ではなくなる。その象徴が「iPod + iTunes + Fairplay + iTunes Music Store」なわけだ。
もしヘヴィなDRMを採用してコピーワンスでしかコンテンツを提供しないのであれば、同一曲を繰り返し購入することに抵抗がない程度に価格を引き下げるべきだ。それが実現できないのであればFairplay程度にカジュアルなDRMを提供することが必要だと感じる。
従来CDを購入したときに得られていた自由さと同等とまではいかなくても、少なくともデジタル・データの利便性を享受できるような使い方を容認しない限り、音楽データ販売が普及するとは思えないし、今以上にレコード産業が発展することもないだろう。
消費者の間に急速に進行している「価値観の多様化」の影響をレコード業界は甘く見ているのではないか。特定の楽曲が一定期間流行する現象はなくならないだろうか、その規模と期間は年々縮小しているように見える。いわゆる「ヒット曲」で大儲けできる時代は既に終ったのだと思う。そのようにピンポイントで大きな利益をあげて全体の収益をまかなうような構造から脱却しないと、レコード産業全体が衰退期に突入するのは避けられないだろう。
消費者の価値観の多様化は比較的多様なパターンの楽曲がそれぞれ適度に売れる状態を生むが、最終的にそれは音楽コンテンツのコモディティ化に繋がると思われる。音楽データのダウンロード販売はそれをさらに促進するだろうが、日本のレコード業界にとってみると「音楽コンテンツのコモディティ化」という現象自体が受け入れ難いことなのだろう。
しかし、それでも世の中は動き続ける。幸いな事にP2PとiPodのようなデバイスが普及してくれたおかげで、メディア収録されていないデータを扱うことの抵抗感は払拭されつつある。音楽データ販売が成功するための環境は着実に整いつつある。
No Pain, No Gain.
レコード業界の英断を期待する。
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