今頃になって知ったのだが、井口真由子というピアニストが自分のソロコンサートでキースの<ザ・ケルン・コンサート>を演奏するらしい。わけがわからない言い回しだけど、その通りなのだ。あのケルンをやるらしい。
楽譜が出版されているので、いつかこんな人が出てくると思っていたら出てきた。(笑)
これで<ザ・ケルン・コンサート>もショパンの<幻想即興曲>みたくクラシック化するわけだ。
しかし、このコンサートのフライヤをみていろいろ考えてしまった。
キースのファンならば、キース以外の人が演奏した<ザ・ケルン・コンサート>を聴きたいと思うかどうかは微妙なところだが、ものめずらしさから興味を持つ人はいるかもしれない。私はその一人。
ググったりしてみたが、公式サイトとかはなさそうで詳細情報はあまりない。手がかりは、いまのところ手元にあるフライヤに添えられている一文しかない。
※井口真由子公式サイト発見 -> ピアニスト井口真由子 official web site
しかし、である。そのフライヤに書かれている内容がとても引っかかる。
…自分を常に引っ張ってくれていたのは、グレン・グールドの音楽。
強烈な集中力からくる彼のサウンドは、キース・ジャレットの音楽からも感じた。
…(中略)…
私は彼らの音楽から感じたことを、自分の音楽で表現したい。
なぜなら、私は「音楽家」になろうとしているんだから。
出版されている楽譜が存在する以上、<ザ・ケルン・コンサート>もクラシック作品のように取り上げることはできる。そういうクラシックの音楽家のメンタリティは理解できる。少なくとも、そうする権利は誰にでもあるので、そのこと自体にあれこれ言うつもりはない。
しかし。そこで本人に問いたいのだ。
----(以下本人に向けて。)----
もし彼の音楽に対する姿勢に共感し、もし本当にトリビュートしたいと考えるなら、あなたはあなた自身の音楽をインプロヴァイズすべきです。<ザ・ケルン・コンサート>ではなく、あなた自身の音楽を。
あなたは自分の音楽を正直にインプロヴァイズする限り、キースと同じ地平に立ってしかも自分の道を歩むことができます。結果として出てきた音楽のスタイルがどんなに違ったとしても、それはとても価値のあるトリビュートになります。
しかし、あなたが楽譜の存在する<ザ・ケルン・コンサート>を演奏したのではそれは不可能ではないかと思うのです。キースがソロコンサートのステージに立つ時、何を感じているのか想像することはありますか?
もし、あなたが「人に伝えるべき何か」を真剣に考え、ステージにおいてそれを伝えようとする人であれば、完全に自由な状態から「新しい音楽」を紡ぎだすことが、いかに大きな精神的苦痛と葛藤を必要とするか理解できると思います。
1,000人以上のオーディエンスを目の前にして、「何でもいいから、何か意味のある、価値のあることを語ってください」と言われたとき、真剣に伝えるべき「何か」をあなたは持っていますか?それを音楽で表現することはできますか?
私があなたに求めたいのはそれです。制約のないところから新しい音楽を取り出すときに感じる精神的葛藤に真剣に向き合うことです。それなしに「自分の音楽」に向き合うことはできないと思うのです。
<ザ・ケルン・コンサート>をどれだけ丁寧に演奏したところで、キースがあの時に感じていたであろうその音楽の「存在理由」をあなたは見いだすことはできないでしょうし、私はその演奏にオリジナル以上の存在価値を見いだすことができません。
キースは楽想を解釈して演奏したのではありません。実際のところ、楽譜に存在するのは記録からトレースされた輪郭だけです。その輪郭に解釈を加えたところで、あのときキースが向き合った精神的苦闘が私に語りかける以上に「価値のあるメッセージ」を楽譜から拾いだすのは不可能です。
しかし、あなたは「自分の音楽で表現したい」と言う。
あなたが本当にそれを望んでいるのであれば、他人の音楽の輪郭を追い求めるのではなく、自分の中に存在する音楽にもっと耳を傾けるべきではないでしょうか。
あなたの言う「自分の音楽」とは何ですか?
----(以上)----
ずいぶん辛口な言い方になってしまっているけど、「自分の音楽」をやる人は自分のアイデンティティと対峙することを恐れてはいけない。もし、それをやめてしまったら「自分の音楽」をステージで演奏する理由が失われてしまう。
井口真由子さん本人がこのエントリーに気づいてくれるといいんだけど。
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